はじめに
2020年10月13日にFacebookが新たなVRデバイス「Oculus Quest 2(オキュラスクエスト2)」を発売したのはまだ記憶に新しいですが、医療と技術とLLPのブログということもあり今回は2020年のまとめとしてXRと日本の医療系スタートアップに関して書きたいと思います。今回、単にVR(Virtual Reality:人工現実感、仮想現実)とせずにxR(xReality:VR、AR、MR、SR等を一括りにした言い方)としたのは、それぞれの境界線が曖昧となり、今までのVR、AR、MR、SRといった分類に当てはまりにくいものが出てきているからです。
日本の医療系xRスタートアップ
- Holoeyes株式会社
- 株式会社ジョリーグッド
- アナウト株式会社
- 株式会社mediVR
- silvereye株式会社
- 株式会社BiPSEE
今回はこの5社を取り上げたいと思います。
Holoeyes株式会社
言わずと知れた、帝京大学冲永総合研究所特任教授の杉本真樹先生がCOOを務める会社です。杉本真樹先生は「VR/AR 医療の衝撃」といった著書もあり、この分野の先駆者的な方だと思います。
『Holoeyes MD』がメインサービスだと思います。そのほかにも、人体解剖・手技・術式をVRで立体空間的に理解することを目的とした教育用のコンテンツ『Holoeyes Edu』があります。
『Holoeyes MD』は医療用画像処理ソフトウェアとしてクラスⅡの医療機器として認証されており、CT・MRI検査で得られた3Dデータを、VRとして体験できるサービスであり、教育、学習等に使用可能なものであり。手術中に利用することは想定された使い方では無いようです。
臨床研究でもかなり使われており、論文もかなりの数が出ています。2020年12月にも出ていますね*1。
しかし、現状では、ヘッドマウントがOculus Quest 2でも503g、メガネの平均的な重さ35gと比較するとかなり重く、手術の際に使用するサージカルルーペ(拡大鏡)も代表的なメーカーのものでLEDライト付きでも100g程度とかなり差があり長時間の手術にはまだ厳しいかなという印象があります。
株式会社ジョリーグッド
ジョリーグッドの社長はコンテンツ×テクノロジーに強い上路健介氏です。コンテンツ制作力がかなり強いイメージのある会社です。医療系以外にも様々なVRコンテンツを作成してきた実績があります。医療系のxRだけでも、認知行動療法に基づいた治療をVRで行うことを目的とした『VR DTx(治療VR)』、発達障害支援施設向けVRサービス『emou』医療現場での教育、学習等を目的とした『オペクラウドVR』があります。
『オペクラウドVR』の実証事業が、東京都が主催する「スタートアップ実証実験促進事業」(PoC Ground Tokyo、以下本事業)に採択されて今後も実証事業が進む様です。
VRの没入感が学習効率をあげるというデータを出すのはなかなか大変だとは思いますが、いい結果出ると良いですね。
アナウト株式会社
虎の門病院で外科医として勤務されていた小林直先生が代表を務める会社です。メインはxRではなく人工知能を用いて、手術中に外科医の目に映るものを自動解析し、リアルタイムに切除するべき部位を外科医に分かりやすく表示する「人体の地図(Precision Mapping)」を開発していますが、これを手術中に実現させるには、ARやMRの技術がなくてはならないだろうと考えて今回ここで紹介しました。まだ、医療機器としては認証されていませんが、手術中に使うとなると高度管理医療機器である必要があり、なかなか大変そうな印象です。
株式会社mediVR
「臨床研究立ち上げから英語論文発表まで最速最短で」 等でも知られている日本臨床研究学会代表理事の原正彦先生が代表取締役社長を務める会社です。2016年の設立で、特許も多くとっており、医療機器認定されている『mediVR カグラ』 が有名ですね。MedVenture Partners株式会社 、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社、TARO Ventures等から出資を受けています。
『mediVR カグラ』は運動機能と認知機能を同時に訓練できるとされており、それにゲーミングの要素を取り入れることでリハビリ効率の持続を目指していると考えられます。医療機器であり論文や研究発表も数多くされています。
silvereye株式会社

楽天出身の汲田宏司氏が社長を務めています。2017年創業です。『RehaVR』が医療系のVRツールキットになります。東京医療保健大学の医療情報学科の今泉一哉教授との共同開発を行なっているそうで、2020年にも共同で工学系の雑誌に事例紹介*1を行なっていますね。
『RehaVR』 は「VR動画を見ながら散歩気分でトレーニング」と紹介されており、VRヘッドマウントと⾜こぎペダルを使用することで没入型のトレーニングが可能な様です。
『RehaVR』 は医療機器ではないが、現在も回復期リハビリテーション施設やリハビリ型デイケア施設、フィットネスジムなどで実証実験が行われている様です。あくまでも現在はトレーニングキットでありリハビリ効果があるか、従来のリハビリより何かしらの優位点があるかどうかは実証実験中の様です。
株式会社BiPSEE
社会人を経験した後に医師になったという異色の経歴をもつ松村雅代先生がCEOを務める2017年に設立された会社です。心療内科医師である代表の思いと経験から心身医学 × xR の分野で事業を行なっています。『ビジュアル型認知行動療法』、子どもの不安と痛みを和らげることを目的とした『BiPSEE医療XR』をサービスとして提供している様です。
BiPSEE医療XRは非常に面白く、AR→VRと対象である子ども姿勢変化に合わせて、現実の世界から段階的にAR、VRへと環境を変化させることで、医科や歯科における治療時の子どもの不安感を取り除くことを目標としている様です。現在のところ医療機器としての認証はされていない様です。
まとめ
今回ここにまとめきれなかった、詳しい各サービスの内容は各社のHPをご覧ください。
参考文献
*1 Kitagawa M., Sugimoto M., Umezawa A., Kurokawa Y. (2021) Clinical Benefit of Mixed Reality Holographic Cholangiography for Image-Guided Laparoscopic Cholecystectomy. In: Takenoshita S., Yasuhara H. (eds) Surgery and Operating Room Innovation. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-15-8979-9_11
*2 汲田 宏司, 島香 菜美, 今泉 一哉, 医療保健分野におけるVR技術による挑戦, 計測と制御, 2020, 59 巻, 4 号, p. 269-273, 公開日 2020/04/21, https://doi.org/10.11499/sicejl.59.269
VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学 文藝春秋
医学のあゆみ バーチャルリアリティ(仮想現実)機器の医療応用に向けて 269巻8号[雑誌] 医歯薬出版
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