はじめに
拡張現実(AR)は最近よく聞く単語だと思うのですが、ARと仮想現実(VR) との違いをはっきりと説明することができますか?VRが新しい現実を作り出すのに対して、ARが現実世界に情報を付け加えていきます。その、両方が現在医療で利用する為に様々な技術開発がなされていますが、今回はパデュー大学とインディアナ大学医学部の研究者チームが開発した遠隔医療用ARシステムに関する論文を紹介したいと思います。
手術時テレメンタリングのための拡張現実プラットフォームの評価
この論文はSystem for Telementoring with Augmented Reality (STAR)と呼ばれる遠隔医療用ARシステムを用いた緊迫した状況下での手術時テレメンタリングの効果に関するNatureの関連誌であるnpj Digital Medicineに掲載された論文です。
もともと、STARは外科医などの遠隔地にいる臨床医が、軍医や救急隊員などに緊急処置を行う方法を指導することを目的にしています。音声による支持とAR使用者がみている像をメンターもリアルタイムで見ることが可能で、メンターは2Dのポインターを3D像の中に表示させることで、適切な支持を出すことが可能なシステムです。ポインターは手術時のメンタリングに適した、鉗子やメスの形をしたものが用意されています。
この論文では被験者がSTARを使用下で銃声やヘリコプターの音、爆発音、実際の煙の音に気を取られながら輪状甲状靭帯切開(輪状甲状間膜切開)の模擬試験を行うとSTARを使用せずに音声のみで臨床指導を受けた参加者のパフォーマンスと比較してパフォーマンス(緊急輪状甲状靭帯切開パフォーマンス(ECP)スコア、グローバル評価スケール(GRS)、評価者の総合評価(EOR)、クリティカルクライテリア(CC)、および完了時間。)が向上したことが述べられています。
被験者(米海軍の軍人)は20人(17人の男性、3人の女性; 26.2±7.4歳)でしたが、一人が正規の手順を踏まなかったことから除外されています。実験時には戦場等の緊迫した状況下を演出する為に音だけでなく、煙等も使用しています。音声のみとSTARの使用をランダマイズして、患者シミュレーターを用いて4例の切開を行い評価されました。その他、バイアスをなくす為に様々な条件が付け加えられています。
輪状甲状靭帯切開に関して
輪状甲状靭帯切開(輪状甲状間膜切開)は気道閉塞等で緊急に気道確保の必要があるにもかかわらず、気管挿管が困難であったり気管挿管を失敗した場合におこなう観血的手技で、喉のあたりにある輪状軟骨と甲状軟骨の間を切開する手技です。すごく難しい手技では無いですが、一刻を争う時に行う手技なので緊張感を伴います。

動画
STARの動画を載せておきますが、少し閲覧注意です。
最後に
この技術を使用することで、宇宙飛行や軍事、遠隔医療など、さまざまな場面での使用が今後期待されています。
日本でも医療に関するAR、VRの開発を行なっている企業は、BiPSEEやHoloeyes、ジョリーグッド等数々ありますが、ビズネス面だけでなくアカデミックな面でも存在感を出して行って欲しいと思います。
参照
Rojas-Muñoz, E., Lin, C., Sanchez-Tamayo, N. et al. Evaluation of an augmented reality platform for austere surgical telementoring: a randomized controlled crossover study in cricothyroidotomies. npj Digit. Med.3, 75 (2020). https://doi.org/10.1038/s41746-020-0284-9

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