大学時代の講義でも、研修医時代の病院の麻酔科でも吸入麻酔薬による全身麻酔が何故効果があるかははっきりとは分かっていないということはよく聞かされました。麻酔薬は細胞膜を標的としていると推測されていましたがはっきりはしていませんでした。そんな、全身麻酔の意識に対するメカニズムを明らかにしたという論文が、スクリップスリサーチからProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PANS)に発表されました。
クロロホルムとイソフルランを使用した最新のナノスケールの顕微鏡技術(dSTORMと呼ばれる顕微鏡)と、細胞やミミズバエを使った実験から、GM1と呼ばれる細胞膜脂質クラスターが重要な役割を果たしていることがわかりました。麻酔薬にさらされると、GM1は変化し、ホスホリパーゼD2を放出して、それがPIP2と呼ばれる脂質クラスターへ移動し、PIP2クラスター内の主要な構造である、TREK1カリウムイオンチャネルとその脂質活性化因子であるホスファチジン酸が活性化しさせるということが、dSTORMで観察されました。
このTREK1の活性化は、ニューロンの発火能力を基本的に凍結させ意識の喪失に繋がるというメカニズムの様です。
この様にして、麻酔薬の意識喪失に対するメカニズムが分かった様です。さらに、このホスファチジン酸が体内での麻酔感受性の閾値を決める要因となっている可能性があることが分かった様です。
参考
Mahmud Arif Pavel et al, Studies on the mechanism of general anesthesia, Proceedings of the National Academy of Sciences (2020). DOI: 10.1073/pnas.2004259117
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